肝臓・胆嚢・膵臓
🫀 肝臓・胆嚢・膵臓がんの腫瘍循環器外来
肝臓・胆嚢・膵臓がん治療と心臓のケア
肝臓がん(肝細胞がん)、胆道がん(胆管・胆嚢がん)、膵臓がんは、消化器がんの中でも特に専門性の高い治療が求められる領域です。手術、化学療法、そして分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい薬物療法が進歩し、治療の選択肢が広がっています。
しかし、これらの強力な薬剤は、高血圧や血栓症、心不全といった心血管系の副作用を引き起こすことがあります。特に膵臓がんは、がんそのものが血液を固まりやすくする性質を持っており、血栓塞栓症(エコノミークラス症候群や脳梗塞)のリスクが非常に高いことが知られています。
当院では、循環器専門医とがん薬物療法専門医の資格を持つ院長が、消化器内科や肝胆膵外科の主治医と連携し、心臓と血管の状態を細かく管理しながら、安全に治療を継続できるようサポートします。
肝臓・胆嚢・膵臓がん治療の特徴
肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変を背景に発症することが多く、肝機能の温存とがん治療の両立が必要です。膵臓がんは進行が早く、強力な化学療法が行われます。胆道がんも含め、これらの治療では薬剤による心毒性だけでなく、栄養状態や肝機能低下による心負荷にも注意が必要です。
心毒性リスク
使用する薬剤や、がんの種類によって、以下の心血管リスクに注意が必要です。
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薬剤・治療法 |
代表的な薬剤/治療 |
心毒性のリスク |
|---|---|---|
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マルチキナーゼ阻害薬 |
レンバチニブ(レンビマ) |
高血圧、タンパク尿、手足症候群、心不全、QT延長 |
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免疫チェックポイント阻害薬 |
アテゾリズマブ(テセントリク) |
心筋炎(稀ですが致死的)、不整脈 |
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VEGF阻害薬 |
ベバシズマブ(アバスチン) |
高血圧、血栓塞栓症、出血、心不全 |
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FOLFIRINOX療法 |
5-FU、オキサリプラチン等 |
冠攣縮性狭心症(胸痛)、心筋虚血、血栓症 |
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ゲムシタビン |
ジェムザール |
心筋虚血、不整脈、浮腫(むくみ) |
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がん自体・背景病変 |
膵臓がん、肝硬変 |
血栓塞栓症(特に膵臓がん)、肝硬変性心筋症、門脈圧亢進症による肺高血圧症 |
マルチキナーゼ阻害薬(レンバチニブ等)と高血圧
⚠️ 治療開始直後から血圧が急上昇することがあります
肝臓がん治療薬のレンバチニブやソラフェニブは、血管の増殖を抑える作用がありますが、副作用として30〜40%以上の患者さんに高血圧が現れます。
血圧が急激に上がると、脳出血や心不全のリスクが高まるだけでなく、がん治療薬の減量や中止を余儀なくされることがあります。治療効果を維持するためには、家庭での血圧測定を行い、必要に応じて降圧薬を調整して、血圧を適切にコントロールすることが極めて重要です。
フッ化ピリミジン系薬剤(5-FU、S1)による胸痛・心不全
膵臓がん、胆道がん、肝臓がんで使われる5-FU系薬剤(S-1など)は、心臓の血管を痙攣させる「冠攣縮性狭心症」を引き起こすことがあります。
- 症状: 治療中や内服後の胸の締め付け感、冷や汗、動悸
- 対応: 無理は禁物です。症状が出たら直ちに医師に伝え、ニトログリセリン等で対応します。
また、心筋障害による心不全を引き起こすこともあり、定期的な心エコー、心電図評価が重要です。
肝臓・膵臓がんと血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)
膵臓がんは、全てのがんの中で最も血栓(血の塊)ができやすいがんと言われています(15〜20%の患者さんに発症)。また、肝臓がんでは「門脈」という血管に血栓ができることがあります。
血栓が肺に飛ぶと「肺塞栓症」という命に関わる状態になります。一方で、肝硬変や胃静脈瘤がある場合は出血のリスクも高いため、血をサラサラにする薬(抗凝固薬)の使用には、出血と血栓のバランスを熟慮した専門的な判断が必要です。
肝硬変と心臓:特有の問題
肝硬変が進むと、心臓の動き自体には問題がなくても、血管が開いて血液の流れが速くなり、常に心臓に負担がかかっている状態(高拍出性心不全)になることがあります。これを「肝硬変性心筋症」と呼びます。肺の動脈まで影響が及ぶと、「門脈肺高血圧症」という病気も引き起こします。肝硬変患者では、定期的な心臓の評価・管理が必要です。
栄養障害と心臓
膵臓がんや胆道がんでは、消化酵素の不足や食欲不振により栄養状態が悪化しやすくなります。栄養不足は心臓の筋肉を弱らせ、心不全のリスクを高めます。当院では、心臓を守るための栄養療法も重視しています。
当院での腫瘍循環器診療の流れ
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治療前評価
血圧、心機能、心電図のチェックに加え、肝機能や血小板数を確認し、出血リスクと血栓リスクのバランスを評価します。
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治療中のモニタリング
分子標的薬使用中は血圧管理を徹底します。免疫療法中は心筋炎の兆候がないか定期的にチェックします。
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腫瘍循環器リハビリテーション
体力と筋肉量を維持するための運動療法と、栄養状態改善のための食事指導を組み合わせたリハビリを行います。
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治療後のフォローアップ
長期生存を目指す中で、動脈硬化や心不全のリスク管理を継続します。
心毒性が起きた時の対応
- 高血圧: がん治療を中断せずに済むよう、降圧薬を積極的に使用してコントロールします。
- 血栓症: 出血リスクを慎重に評価しながら、適切な抗凝固療法を行います。
- 冠攣縮性狭心症: 発作時は薬剤中止と血管拡張薬投与を行い、治療薬の変更を検討します。
受診をおすすめする方
- ✅ レンバチニブ、ソラフェニブ等の分子標的薬を使用中・予定の方
- ✅ アテゾリズマブ(テセントリク)等の免疫療法中の方
- ✅ FOLFIRINOX、ジェムザール等の化学療法を受けている方
- ✅ 治療開始後に高血圧になった、または血圧が上がってきた方
- ✅ 治療中に胸痛、動悸、息切れを感じた方
- ✅ 足のむくみや急な息苦しさがあり、血栓症が心配な方
- ✅ 肝硬変や腹水があり、心臓への負担が心配な方
当院の強み
当院長は循環器専門医であり、がん薬物療法専門医でもあります。
- 厳格な血圧管理: 分子標的薬の効果を最大限に引き出すため、きめ細やかな血圧コントロールで治療継続をサポートします。
- 血栓と出血のバランス管理: 消化器がん特有の出血リスクを考慮しつつ、致命的な血栓症を防ぐ最適な管理を行います。
- 肝硬変合併例への対応: 肝臓と心臓の連関を理解した上で、全身状態を最適化します。
- 専門医連携: 消化器内科や肝胆膵外科と密に連携し、がん治療を止めないためのチーム医療を提供します。
💡 患者さんへのメッセージ
肝臓・胆嚢・膵臓がんの治療は、時に体に大きな負担をかけますが、医学の進歩により治療成績は向上しています。
特に分子標的薬による高血圧や、膵臓がんの血栓症は、適切な管理を行えばコントロール可能な合併症です。「血圧が高いから」「心臓が心配だから」とあきらめる前に、ぜひご相談ください。循環器とがん薬物療法のプロフェッショナルとして、あなたの治療を全力で支えます。
